プラスチックの環境対策と高機能化を中核テーマとし、電子機器用プラスチックのリサイクル技術や、環境調和性と機能性を両立するプラスチックについて、NECで研究リーダーとして、テーマ企画から研究開発、実用化まで中心的に推進しました。
以下に、代表的な開発事例をご紹介します。
電子機器に大量に使用されているプラスチック複合材の効率的なリサイクルを目指し、IC用モールド材(エポキシ樹脂複合材)の廃棄物の粉砕による再利用や、熱分解による有価物(充填材の高純度シリカ粉)の回収に関する技術を開発しました。また、電子部品を搭載したプリント基板に対して、加熱・外力付加によって、搭載部品とハンダ、さらに、粉砕・分離(静電分離)による銅とガラス繊維含有樹脂粉を効率的に回収する技術を開発しました(環境賞受賞)。⇒開発事例①
電子機器や建材等の多くの製品には、火災防止のためプラスチックに難燃性が要求されていますが、従来は有害なハロゲン系難燃剤が使用されていました。そこで、新しい安全な難燃剤によって高度な難燃性を実現できるプラスチックの開発と実用化を目指しました。
まず、新構造のシリコーン系難燃剤(メチルフェニル分岐型シリコーン)を開発し、これを添加した難燃性ポリカーボネート(エコポリカTM)を材料メーカー(住友ダウ、現、住化ポリカーボネート)と共同で世界に先駆け製品化しました。そして、海外のトップメーカー(ダウケミカルズ)にも技術移管し、世界展開を実現しました。本材料は、高度な環境安全性に加え、耐熱性にも優れるので、電子機器・建材に加え、様々な分野で利用が広がっています。
さらに、電子部品用に、従来の有害難燃剤を一切使用せずに、着火時の樹脂自体の発泡・断熱化によって自己消火が可能なエポキシ樹脂組成物(フェノールビフェニレン型エポキシ樹脂と硬化剤、シリカ粉等の複合材)を開発しました。そして、IC用のモールド材として材料メーカー(住友ベークライト)と共同で製品化しました。本材料は環境安全性とともに高度なハンダ耐熱性や絶縁特性を実現したため、世界の主要なICメーカーに採用され、現在も広く利用されています。
(研究功績者表彰 文部科学大臣賞、グリーンサステナブルケミストリー賞など受賞)⇒開発事例②
CO2を固定化し再生可能な植物を原料とするバイオプラスチックは、温暖化防止と石油資源の枯渇対策に寄与できる新素材として期待されています。しかし、電子機器などの耐久製品用途では、高い植物成分率と高機能性の両立は困難とされていました。
そこで、従来にない高い植物成分率(70%以上)と電子機器用の実用性(耐熱・強度、難燃性)や新機能を実現するポリ乳酸複合材を開発し、材料メーカーとの共同で実用化しました。温暖化防止効果の高いケナフの繊維を添加した高耐熱性ポリ乳酸複合材を開発し、これを使用した世界初のエコ携帯電話を製品化しました(ユニチカと共同)。さらに、安全な金属水酸化物を使用した難燃性ポリ乳酸複合材を開発し、パソコン等の7機種に搭載しました(花王と共同)。この他、新機能性として、熱可逆架橋させたポリ乳酸での形状記憶性、網目化した炭素繊維の添加による高伝熱性、自己形成型の3層構造ナノ粒子の添加による高靭性を実現しました。(日経BP技術賞など受賞⇒開発事例③-1,2,3
さらに、植物原料を従来のデンプンから非食用原料に切り替えるため、木材の主成分のセルロースとカシューナッツの殻から抽出したカルダノールを利用し、強度や耐熱性に優れたセルロース系バイオプラスチックを開発しました。この製造方法として、有機溶媒量を削減した半不均一系プロセスによって、大幅な省エネルギー化を達成しました。また、新たな付加価値として、特有な着色成分等の利用で、高級漆器調の高度な装飾性(漆ブラック)を初めて実現しました。⇒開発事例③-4,5
その後、筑波大で、新しい植物原料として藻類バイオマスを利用したバイオイプラスチックの研究開発に取り組み、製造時の極めて低いCO2排出量(ほぼゼロ)を実証しました。
1997年 | 第24回 環境賞 優良賞(プリント基板のリサイクル技術) |
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1999年 | Outstanding Technical Paper Award (The 3rd 1999 IEMT/IMC Symposium) (ICモールド用の自己消火性エポキシ樹脂組成物の開発) |
2002年 | 研究功績者表彰 文部科学大臣賞(文部科学省) (環境調和型の難燃性プラスチックの研究開発) |
2004年 | グリーンサステナブルケミストリー賞 環境大臣賞 (自己消火性エポキシ樹脂組成物の開発と応用) |
2004年 | 日経BP技術賞 エコロジー部門賞 (ケナフ添加ポリ乳酸組成物の開発) |
2004年 | エレクトロニクス実装学会 技術賞 (自己消火性エポキシ樹脂組成物の開発と応用) |
2006年 | 日経BP技術賞 エコロジー部門賞 (ポリ乳酸の高機能化と利用展開) |
2008年 | 日経BP技術賞 電子部門賞 (高伝熱性ポリ乳酸複合材の開発) |
2009年 | 関東地方発明表彰 神奈川県支部長賞 (シリコーン添加難燃性ポリカーボネートの開発) |
2012年 | The 2012 Frost & Sullivan Global Product Differentiation Excellence Award in the Bioplastics Market
(カルダノール付加セルロース系バイオプラスチックの開発) |
2006~現在 | エコマテリアルフォーラム 幹事 |
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2005年~2021年 | 難燃材料研究会 運営委員 |
2004年 | 独)日本学術振興会 科学技術振興調整費評価委員 |
2010~2017年 | 独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員 |
2010年 | 独)日本学術振興会 最先端・次世代研究開発支援プログラム 審査委員 |
2013~2017年 | 財)茨城県科学新興財団つくば賞予備審査会委員 |
2021年4月~現在 | 一社)難燃材料研究会 理事(副会長) |
招待講演 | 国際会議20件 国内学会等84件 |
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一般発表 | 国際会議38件 国内学会等49件 |